【感想】Hellblade:Senua's Sacrifice(ヘルブレイド:セヌアズ サクリファイス)
Hellblade:Senua's Sacrifice 感想
結論:精神疾患の苦しみを見事に表現。
死と悪夢に悩まされる痛ましくも切ない旅だった。
※あくまでも、個人的感想によるレビューです。
【お気に入り度の目安(~100%)】
◆80~99%:とてもオススメで大好きな作品 ◆60~79%:高い満足度が得られる作品
◆50~59%:普通に楽しめて面白い作品 ◆20~49%:少し残念な点が多々ある作品
◆1~19%:イマイチで私には合わなかった作品
【評点の目安】
S:秀、A:優、B:良、C:可、D:残念
+:多少の加点
<↓詳しい感想は下記で↓>
ストーリー
ケルトの世界。主人公は巫女の娘であるピクト人のセヌア。彼女は戦士でもある。
バイキングの時代を舞台に、主人公が見て感じている“世界”を描いている。
亡き愛する人の魂を解放するために冥府ヘルに向かう旅だ。狂気と神話で彩られたセヌアの物語になっている。
神話の世界“ヘルヘイム”に囚われた魂を救うため、恋人の頭蓋骨と共に彼女は過酷な道を進んでいく。どんな試練をも乗り越える覚悟である。旅の中で彼女が過去と対峙することで、次第に彷徨う世界の真実が浮き彫りとなっていく。
物語を進めることで「過去に何が起きて、今があるのか」が分かるようになっており、セヌアの「心の旅」を彼女と共に体感していくゲーム内容だ。
常に客観視点の語りべの言葉で、物語は語られているが、ラストで誰の声であったのかがわかった時の安心感と、セヌアの成長を感じた。
楽しい旅ではないが、人を愛することで得た“強さ”と、疾患の“苦しみ”を十分に味わえる内容だった。テーマを存分に表現した素晴らしい物語になっていたように思う。
アクション・システム
特筆するべきは「音」の演出だ。
周りに誰もいないのに話しかけてくる声。
幽霊のような魂(心)の声が止まずに聞こえる不快感と不安感がプレイヤーも襲う。
この声は、バイノーラル3Dサウンドになっており、ヘッドフォンで遊ぶと、セヌアの幻聴と同じように、頭の中で聞こえるような幻聴体験ができる。鼓膜からダイレクトに感じている音を再現していて、距離感のある立体音響で声が聞こえてくる。ヘッドフォンでなくても、音の強弱や距離感がわかるほどだ。
この幻聴は、どこからともなく聞こえてきて、内容もサポートや陰口であったりとさまざま。頼もしくもあり、わずらわしくもある。セヌアを嘲笑ったり、鼓舞したり、戦闘中は背後の敵を知らせたり、くじけそうになれば、励ましたりもする。止むことない唸り声や叫び声は、絶えずセヌアの心を揺さぶり乱していく。
プレイヤーも複数の声が四方八方から聞こえることで、何とも言えない不安感を覚える。いつの間にかセヌアと同じ心境になっていくことだろう。
次に幻覚の表現だが、進めていく中で出会う謎解きやパズルになっている。
あるフィルターを通してみることで、あるはずのない道が現れる。といったトリックは面白い。このトリックを使い分けながら、正しい道を進んでいくのは楽しかった。
他にもルーン文字で封じられた扉。
フォーカスすることで、形を覚え、同じ形のものを探していく。
近くに同じ文字がある時は、画面いっぱいに文字が広がって教えてくれる。
この画像の場合は、木の枝の影が文字を模っている。フォーカスすることで、扉の封印が解かれるといった面白いトリックだ。パズルのような感覚で楽しめた。
時には戦闘もある。この戦闘アクションがカッコイイ!
敵の攻撃をうまく避けたりガードしたりしながら、戦うことになる。簡単な操作でカッコ良く動かせるのは、遊んでいて気持ちがいい。敵の強さは難易度ノーマルで、なかなかの歯ごたえだったように思う。
物語が進むと、攻撃するたびに腰に下げた鏡に力が溜まるようだ。使い方の説明はないが、幻聴が「フォーカスするのよ」と教えてくれる。
力が溜まった時にフォーカスすると、周辺にルーン文字が散りばめられ、時間がスローになる。セヌアにとって有利に動ける時間だ。これを上手く使いながら、大量に湧く敵を倒していくのは楽しかった。
もっと戦闘を楽しみたいくらいの戦闘アクションで、個人的に好きなデザインだ。
キャラクターの描写も素晴らしく、苦しみに歪む顔が痛々しいが、セヌアの表情と仕草は実写のように美しい。
ほかにも、幽霊のような存在である人物は、実写の映像になっている。3Dモデリングのセヌアと見事に融合して画面上に登場すると共に、幻影である雰囲気作りが違和感なく感じ取れた。実写を重ねると浮きそうな感じがするが、とてもマッチして溶け込んでいる。
暗闇を進んだりする時の陰影や炎の揺らぎ、自然物や建築物の質感などなど、グラフィックは全体的に素晴らしいものだった。
イベントのスキップ機能がないので、周回する場合が少し面倒かもしれない。
やりこみ
やり込み要素はないが、精神的に重たい物語と演出なため、1周で十分なボリューム。
1つだけ、石碑のルーン文字を集めるという収集がある。トロフィー項目にもなっていて、時計回りに集まり、イベントごとに区切られているので、取り逃しも目に見て分かる。(ちなみに赤字の所が、私の取り逃し)
ルーン収集は、データが2周目にも引き継がれているので、取り逃したものを集めるだけでOKなのも嬉しい。
トロフィーもクリアすれば集まるものばかりで、簡単にトロコンが可能だ。
精神疾患度
物語は、トラウマによって引き起こされた「精神疾患」がテーマとなっている。
しかも、主人公が疾患を患っているという勇気ある題材を見事に表現し、体験させてくれる内容だ。
精神疾患の専門家と体験者の意見を取り入れ、しっかりと病についての知識を深めており、違和感なく見事に精神疾患を描ききった。
精神疾患者の感じる憂鬱と苦痛。
苦しい世界(ストレス)を体験させるゲームだ。独特な内容で、一般的なエンターテインメント作品ではないが「テーマ」をとことん追求した、とても素晴らしい意欲作になっていると思う。
内なる闇に体が蝕まれていくことに恐怖を感じ泣き叫ぶセヌア。
彼女が疾患者だというのは、徐々に明らかになっていく。初めはプレイヤーも彼女の見ているものが、リアルであると思うはずだ。
心の闇に侵食しされていく腕は、侵食する闇の脈打つ動きの描写も細かい。
ゲームオーバーという概念はないが、死は闇を深めていく。彼女が力尽きる度に深く侵食していく。
幻覚、幻視とフラッシュバックによる世界体験。ルーン文字を意味あるものとして捉え、パズル感覚として謎を解く思考。たとえ幻だとしても、精神疾患を患っている“彼女には現実なのだ”。
画面の揺れやピンボケなど、彼女が視界から得る情報は、プレイヤーも共有することになる。
辛く苦しいトラウマによって心が悲鳴を上げる。疾患者という他者からの偏見によって孤立し、しだいに闇は大きく育っていく、自分をも飲み込んでいく勢いに...。恐怖に支配され、自分でコントロールできない感情。自責と無力感で自傷に走る。
人が不安定になった時、誰にも起こりうる病でもある。このゲーム体験を通して、疾患者が負う責苦が伝えられている。
総合
私の好きなディベロッパーである「Ninja Theory」の作品なので、少し過大評価にもなっているかもしれない。なるべく客観的に書いてはいるが、その点をまずご理解頂きたい。
第一に、やはり大好きだなという感想。
インディー系で、ここまでのクオリティは本当に素晴らしい。そして、インディーだからこそ表現したいテーマを存分に問いかけた作品だということ。
Ninja Theoryは、これまでに大手パブリッシャーと手を組んで作品を制作し、開発実績を持っているが、 パブリッシャーに縛られることなく「自分達の作りたいものを作る」という志が高いと感じる。大手に劣らない技術力と表現力が光っていると思う。今後の作品にも期待したい。
企業名に「ニンジャ~」とあるので、日本へ少なくとも好意があると思われ、どれも彼らのゲームは北米版でも日本語対応になっている。特別な設定をせずとも、普通に日本語字幕で遊べ、翻訳もしっかりとしているのは嬉しい。
このゲーム、誰にでも薦められる内容ではないが「哀しみと苦しみ。そして心の闇との戦い」を素晴らしく具象化した。ゲームとしての楽しさもありながら、疾患者の痛みをも感じ取れる。
セヌアの犠牲というサブタイトルもあるように、セヌアがどんな犠牲を払っても、あきらめない姿と、強い決意は痛々しくも美しかった。どれだけ傷ついても苦しんでも、前に進む姿に勇気をもらった。
精神疾患というと、まだまだ偏見や病への理解が少ないものだが、このゲームを通して少しでも精神疾患者の辛さや状態への理解が深まればいいなと願いたい。
ゲームを通して、いろいろと体感し、考えさせられるものになっていたように思う。
以上、Hellblade:Senua's Sacrificeの感想でした。
Hellblade: Senua's Sacrifice (輸入版:北米) - PS4
- 出版社/メーカー: 505 Games(World)
- 発売日: 2018/12/04
- メディア: Video Game
© 2017 Ninja Theory Ltd. All Rights Reserved.